恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第65章 恋の継子、二つの蛇に睨まれる / 🐍
「じゃあまた。甘露寺さんとの稽古、頑張れ!」
「うん、ありがとう。禰󠄀豆子もまたね」
七瀬は炭治郎が背負った霧雲杉の箱を撫でた。
すると中からカリカリと爪で木を引っ掻く音が聞こえ、彼女の口元に笑みが宿る。
炭治郎が前を向いた事を確認した七瀬は、自分も帰路へとついたのだった。
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「私の師範でもある煉獄さんに相談してみたのね。そうしたら是非七瀬ちゃんの指導をしたいって張り切ってたわよ」
「え? 師範……ちょっと待って下さい。私、炎柱の継子になるって事ですか?」
先月蜜璃の継子になったばかりだと言うのに、一ヶ月で師弟関係の解消は早すぎる。
七瀬はそんな事を蜜璃に訴えると「煉獄さん、指導は凄く上手よ」と更にすすめてくるので、困ってしまった。
「そう言ってくれるのは嬉しいのだけど…でも座学がね……」
「座学だけ! 炎柱に頼む…じゃ…ダメ……ですか?」
「それだけじゃもったいないわ〜! 実技の稽古もして貰ったら? 煉獄さんは剣技も素晴らしいわよ」
「はい、それは一緒に任務した事があるから知ってますが、実践稽古はちょっと……」
「どうして?」 と顔中に疑問符を浮かべて問いかけて来る蜜璃に対し、杏寿郎の稽古はとにかく厳しく、何人も継子希望の隊士が脱落していると耳にしている七瀬は、必死で抵抗をした。
「わかったわ、七瀬ちゃんがそこまで言うなら座学だけでってお願いしてみる。でも本当に私の継子のままで良いの?」
「はい! 私は師範とこれまで通りやっていきたいんです」
「ありがとう……七瀬ちゃんの気持ち……凄く嬉しい」
じわっと目頭を熱くした蜜璃は食べながら涙を流す —— と言う奇怪な状態になってしまい、七瀬に何度も背中をさすられ、落ち着くまで泣き続けたのである。