恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第64章 霞屋敷のふろふき大根には柚子の皮が乗っている / 🌫️
🐿️
「霞の呼吸・参ノ型」
「——— 霞散の飛沫(かさんのしぶき)」
円を描くような回転斬りが虚空に向かって放たれた。
直後パリンと割れる音が聞こえると、数メートル先に二人の人物が視界に入る。
「ゆずは!!」
「なーんだ、もう鬼狩りのお出ましかあ。つまんねー」
潰した柚子を投げ捨てた鬼は、いかにも面倒くさそうな面持ちで後ろにいる無一郎に向き合った。
「わっ、俺運良いかも。あんた柱じゃん」
「…下弦の鬼か」
「よろしく、夕霧(ゆうぎり)です…って、いってぇ…」
霞柱に差し出した右手が宙を舞いながら、地面に落下した。
「君の名前なんて聞いてないよ」
「冷たいなあ、名前ぐらい教えてくれたって良いじゃん」
「時間の無駄、ゆずはを返して」
「うわぁ、全然俺の話聞いてくんない。落ち込むー」
夕霧と名乗った鬼は、斬られた肘の断面部を大袈裟に撫でながら体を再生させた。無一郎は夕霧に構う事なく、刀の切先を鬼に向けたままだ。
「この女、一年前に俺が殺した人間の身内なんだって。それだけでも興奮するんだけどさ」
「何が言いたいの?」
ゆずはの母の血は今まで喰って来た人間の中で三本の指に入るぐらいの美味さだった。それ故に血縁者である彼女の血もきっと美味いはず。
「そいつを殺せば、下弦の壱に入れ変わりの血戦(けっせん)を申し込めるんだ。下剋上ってやつだよ。壱の鬼も俺と同じ【夕】って字が付いてて、気分良くないわけ。おまけにあのお方に気に入られてる」
「…だから何?」
「わかんねぇ? あんた、劣等感とか持った事ないんだろ。 そう言う奴らが俺は腹がたって仕方ないんだよ」
「ふうん、よく話すね。君…弱い犬程ってヤツ?」
「……!」
夕霧は掌を無一郎の方に向け、グッと押し出した。するとその押された空間は、丁度人間一人が入れる形になり ———
「血鬼術 —— 空間転置・閉(くうかんてんち・へい)」
「……何これ」
「無一郎さん!!」
霞柱は鬼が作り出した空間に全身を包まれてしまった。