恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第64章 霞屋敷のふろふき大根には柚子の皮が乗っている / 🌫️
🐿️
「被害等の状況は?」
「子供ガ数人、森ノ中カラ出て来ナクナッタミタイ。母親達ガ探シ回ッテルノハ見タヨ。ソレトネ…」
銀子が発した言葉を聞いた無一郎の眉間に、皺が寄る。
「それは確かな情報?」
「ウン、アレハアノ子ダッタ。外出スル時、頭巾ハ被ッテナイデショ?」
「でも何でこんな所に彼女が? あ…」
柚子湯を用意する為か。
合点がいった無一郎にカアー、と銀子が一度鳴いた。
見回り中、柚子がたくさん売られていたのを思い出した霞柱。
先日しのぶが来訪した際「もうすぐ冬至ですね」と話していた。
しかし、無一郎はもう一つある事を思い出す。
冬至は一年で昼間に太陽が出ている時間が最も少ない。その為、夜が長いこの時期、人間が鬼に襲われる確率は通常時より跳ね上がる。
ゆずはは隊士になれなかったが、力は一般女子よりあるし、足も速い。下級鬼なら逃げ切れる可能性は出てくるが、今回は十二鬼月だ。
異能 —— 血鬼術を使用する鬼の可能性が非常に高い。急がなくては。
『全集中』
スウと息を整えた無一郎の周囲に、一瞬だけ霞が現れる。
走る速度が上がり、子供が数人出て来なくなったと言う森があっという間に見えて来た。
ゆっくり歩いても、五分はかからない一本道。
これは午前中通った時に確認済みだ。森の入り口に立った無一郎は、数回道を行き来したのち、疑念を確信に変える。
「銀子、恐らく血鬼術がかけられている。近くに隊士がいたら呼んで来てくれないかな」
「ワカッタ。無一郎…気ヲツケテネ」
「うん、ありがとう」
霞柱に名前を呼ばれただけではなく、礼まで言われた銀子はまたも卒倒しそうになった。
しかし、ふるふると頭を振って正気を取り戻した後、主の言う通り増援の隊士を呼ぶべく空へと飛んで行く。
『反応してくれると良いんだけど』
ゆっくり鞘から日輪刀を抜刀した無一郎は、両手で構えた。再び全集中の呼吸である。