恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第18章 忘却の夢炎(むえん) / 🔥
彼女にそっと口付けをしながら、自分に関する
記憶を七瀬の中から全て消していく。
『何でこんな事……』
君に初めて口付けた時、そう言われたな。
『ねえ、杏寿郎。私もあなたと同じ色にしてみたよ』
俺と同じ橙色の爪紅を指先に塗ってくれた時、心から君を愛おしいと…そう思った。
『そろそろ鬼になろうかな。あなたと一緒に生きていきたい』
……七瀬…その気持ちは心から嬉しかった。
嬉しかったが、それだけは叶えれない。
絶対に叶えてはいけない願いだ………
その他にもたくさんの七瀬との思い出が自分の心に、脳に入り込んで来た。
彼女の記憶から全て俺の事が消えた事を確認すると、ゆっくりと唇を離し、最後にもう一度だけ。
いつも愛しい気持ちをいっぱいに込めて撫でていた左頬に触れると、スッ…と立ち上がる。
後10分もしない内に目覚めるだろう。
眠っている内に自分は立ち去らねば……… 。
「さよならだ、七瀬。俺は君を抱きしめる事も、君の笑顔を守る事ももう出来ない。だから……」
「どうか生き抜いてくれ」
そう言ってくるりと彼女に背を向けて、森の中に入って行く。
『一番好きな人とは一緒になれないって話をこないだ聞いたんだけど、それって嘘だよね?』
嘘だな、とあの時自分は言ったのか?それとも、言えなかったのか…………?
悲しみでよく思い出せない。
鬼になって200年。自分が涙を流す事など、ないと思っていた。
この日初めて俺は「涙」と言うものをひとしずくだけ流した。
——— 愛しい人を想って流す、最初で最後の甘い涙だった。