恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第18章 忘却の夢炎(むえん) / 🔥
〜杏寿郎から見た景色〜
「…すまんな」
七瀬が眠ってしまったことを確認した俺は擬態を解いて、恋人を横抱きにする。そうして、森の中のある場所へと向かった。
確か…この辺りだったはずだが。見覚えがある木を見つけた俺は、その木の前に彼女を座らせて柔らかな左頬を包む。
とても穏やかで幸せそうな寝顔だ。
ここは七瀬と出会い、彼女との付き合いが始まったとても大切な場所。
“君はこれ以上、俺といたらダメだ”
それが今日痛い程、身に沁みてしまった。人間の姿をした自分とこれ以上ないぐらいの笑顔でいる七瀬。そういう顔をさせているのはもちろん自分だった。
しかし……それは鬼である本来の自分の姿では絶対に出来ない事。
最初からわかっていたはずだろう、俺は鬼。彼女は鬼殺隊の剣士。
本当なら絶対に恋人としてなど、交わってはいけない者同士だ。
お互いがあるべき場所に戻るだけ。そう………それだけなのに。
自分の心は彼女の笑顔でいっぱいに埋め尽くされてしまっている。
彼女がくれたたくさんの「好き」で満たされている。
七瀬と心と体が何度も繋がった事で……
次に出会う時までの待ち遠しさ、そして寂しさを感じる事が出来るようになった。
それでも……離れなければいけない。
離さなければいけない。
本当は君とずっと一緒にいたかったがな。
俺はふう、と一つ深呼吸をする。
全てが始まったこの場所で、全てを終わりにしよう。
七瀬の口元に自分の唇を近づけた。
「血鬼術———」
「忘却の夢炎(むえん)」