恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第62章 Halloween masquerade / 🌊・🔥
結局自分は杏寿郎のこの眼差しに、いつも魅了されるのだ。
観念した七瀬は手招きをし、彼の耳へコソコソと早口で願いを口にした。
「もっとストレートでも良かったのだが…まあ良いとしよう。少し起こすぞ」
「あれ、どうしたんです?」
意気揚々と七瀬を抱き起こした杏寿郎だが、急に黙ってしまった。
「いや、どうやって脱がすのかが全くわからん」
「えっ? そうなんですか?」
まさかわからないと言うとは。
いや、女の自分でも実際着用するまでドレスの実態がわからなかったのだ。
無理もないか。七瀬はそうやって自分を納得させ、杏寿郎に背中のジッパーを下げるよう頼む。
「また……着てくれるか?この色を」
「……もちろんです。私もこのドレス気に入っちゃいました。新しい価値観を提示してくれた瑠火さんに感謝してます」
「そうだな」
—— 白いドレスも楽しみにしておく。少し先の未来を見据えるように、杏寿郎は七瀬に一度口付けを落とすと、ゆっくりと背中のジッパーを下げた。
「はあ、少し楽になりました……。結構締め付けられていたので」
「ドレスと言うのは、着るのも大変なのだな」
「そうですね、華やかな物ってみんなこうなのかも……杏寿郎さん、グローブも外して貰えますか?」
「承知した」
右手、左手と臙脂(えんじ)色のロンググローブが外されると、そこから出て来たのは……。
「先程は緑ではなかったか?」
「そうなんです。瑠火さんがドレスと合わせたらどう?って言ってくれたので塗り直しました」
「なるほど」
七瀬の両手の爪にはドレスやグローブと同じ色のネイルが載せられていた。表面のラメが部屋の灯りに反射し、キラキラと光彩を放っている。