恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第62章 Halloween masquerade / 🌊・🔥
「どんなイタズラなんですか?」
「そうだな……まずは君のこれを脱が……」
「ダメです」
「むう、何故だ?」
杏寿郎の願いは儚く否定され、彼の眉がへにょんと垂れ下がった。まだこの素敵なドレスを堪能していたい。そんな理由からだ。
「それに杏寿郎さんも綺麗だって言ってくれました。だからまだ着ていたいんです」
「またかわいい事を言ってくれるな」
確かに先程ドレス姿が綺麗だと彼は七瀬に伝えた。
普段の彼女が着ない色と言う事もあり、杏寿郎の男スイッチが大いに反応してしまった為、脱がせてみたい。そんな気持ちに辿り着いてしまったのである。
「しかし、いずれは脱がねばならないだろう? それが早いか遅いかだけではないのか」
「…そう言う説得に持って来ますか」
うーんと右拳を顎の下に当てる七瀬は、ハッと何かを思いついたようだ。早速杏寿郎に提案をする。
「杏寿郎さん、あそこにチェスボードがあります。チェスをしませんか?」
「それは構わんが……君やった事はあるのか?」
「ないです。だから今からゲームの流れをスマホでチェックします」
「これはまた随分と安易な提案だな」
「せめてもの抵抗です」
わかった —— 了承した杏寿郎はそのしるしとして、恋人の額に一粒のキスを贈った。
三十分後、チェスボードを囲んだ七瀬と杏寿郎の勝敗がついた。はあ、と海の底に沈み込んでいくようなため息をついたのはもちろん……
「残念だったな」
「チェスって難しいですね……」
七瀬の目の前にはチェックメイト —— いわゆる詰みの状態の駒が鎮座していた。
「そんなに落ち込まれると、傷つくのだが」
「だって杏寿郎さん、チェスまで出来るなんて思わなかったから」