恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第62章 Halloween masquerade / 🌊・🔥
「不思議な助けを借りて、私は綺麗なドレスを着て…お城で開かれる仮面舞踏会に行くんです。顔がわからないから、二人の義姉には全くバレなくて……」
「階段を降りる途中で仮面が外れて、俺はそれを頼りに君を探しに行く —— こんな筋書きか?」
「はい、大体そんな感じです。杏寿郎さんに無事見つけて貰って、私はあなたのお嫁さんになる……お城に行った時、身につけていたドレスが丁度今着ているデザインかもしれませんね」
「そうか」
七瀬の左側に座ってコーヒーをすする杏寿郎は、そのドレス姿を改めてまじまじと見つめた。
どんな色を着るのか。彼女が普段から着用する事が多い寒色系の色なのか。はたまた唯一暖色系で目にする事が多いオレンジか。
彼の予想は良い意味で裏切られた。
『母上の観察眼には本当に驚いた。よもやこんなに赤がしっくり来るとは……』
前世の自分達の刀身の色であった緋色や茜色ではなく、落ち着いた色合いの臙脂(えんじ)色。それは十代最後の歳である七瀬に少しの大人っぽさを与えている。
マグカップを空にした杏寿郎は、七瀬がコーヒーを飲み干したのを確認すると、そっと彼女の滑らかな肩を自分へと引き寄せた。
トン、と七瀬の頭が彼の肩にあたる。
穏やかで柔らかい空気は二人を心地よく包み、そして互いの気持ちをほっとさせていく。
「む? ワルツの音楽がどこかから聴こえるな」
「本当ですね……あ、もしかしたら槇寿郎さんと瑠火さんがお部屋で踊っているとか?」
杏寿郎の脳内に浮かぶのは、父の真っ赤に染まった顔だ。
瑠火には内密でダンスの練習をしたい。故に付き合えと言われ、母だけではなく、父の相手もした事を思い出したのだ。