恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第62章 Halloween masquerade / 🌊・🔥
「俺がどうしたと?」
「……んっ」
七瀬の左頬がそっと包まれ、唇には杏寿郎のキスが優しく落とされた。ちうと軽い音を響かせながら彼の顔が離れていく。
「……いつもの杏寿郎さんも素敵だけど、今日のあなたはとても素敵だから……いつまでも見ていたいなあって思って、写真で振り返っていました」
「ふむ、それは大変嬉しい。だが、写真は後でも振り返る事が出来るだろう?俺は今ドレスを着ている君をもっとよく見たいのだが」
「杏寿郎さん……」
そうですね、と頷いた七瀬はソファから立ち上がると彼にちょっと待っていて欲しいと声をかけた。
それからドレッサー近くに置いているバッグの中から何かを取り出し始める。
どうやらメイク道具が入っているポーチのようだ。
まつ毛、パウダー、リップ、三つのメイク直しを終えると、ドレッサーに置いていたドレスと同じ色のロンググローブを再び腕にはめ、杏寿郎の横に座り直す。
「ちょっとメイク直しして来ました。どうでしょうか…」
ドキドキと高鳴る心臓が落ち着くよう、右手を胸元にあてている七瀬にふっと柔らかい笑みをこぼす杏寿郎。
彼はゆっくりと彼女の右手を取り、そこへちうと口付けを落とした。
「君のドレス姿を見た時から、やってみたかった」
「何だか杏寿郎さんが、王子様に見えて来ました」
では……と七瀬の右手を取ったまま、彼女を立ち上がらせた杏寿郎は「一曲どうだ?」と再びそこへキスを落としながら告げる。
踊れないと再度訴える七瀬に対し、リードすると言う杏寿郎。社交ダンスが踊れるとは聞いた事がない彼女だったが……。