恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第62章 Halloween masquerade / 🌊・🔥
椅子に座った槇寿郎は、淹れたコーヒーを持って来た息子に礼を言ってまた飲み始めた。どこかほっとしている様子が窺える。
「いえ、父上のお気持ちはご理解出来ます! が、俺は七瀬の可憐な姿が見れるのでそちらの楽しみが大きいです」
一方その頃。七瀬と瑠火はと言うと ———
「ドレスの数が多すぎて、目移りしちゃいます!」
「ええ、本当に。槇寿郎さんは恥ずかしがり屋なので、一緒にドレス選びをするのは難しいかなと思っていたのです」
だから、こうして七瀬と楽しく選ぶのが嬉しいのだ。
瑠火は幸せそうな表情で彼女に伝えると、二人の間に流れる空気がより一層ほんわかと揺らぐ物になった。
たくさんあるドレスを全て見て回るのは難しい。
そんな話をしながら、まず互いが着たい色やデザインを決めていく。
「え、赤ですか…?オレンジじゃダメですか?」
「はい、七瀬さんがオレンジを着ている所は見た事がありますが赤は殆どありません。ネイルも赤系はあまり塗らないのでしょう?」
瑠火の指摘に七瀬は自分の手元に視線をやった。先程杏寿郎とも話した通り、両手の爪には緑色が塗られている。
「緑も似合っていますが、赤も似合うと私は思いますよ」
「瑠火さん……」
「杏寿郎の驚いた顔、見たくありません?」
「……はい、凄く見たいです」
「じゃあ決まりですね」と含み笑いをした瑠火は、七瀬の背中を柔らかく押しながら移動を始めた。
「瑠火さん……おかしくないですか? 普段あまり身につける色ではないので、落ち着かないです……」
「おかしくありません、予想以上に似合ってますよ。我ながら見立ては間違いなかったと実感している所です」
葵色 —— 灰色がかった明るい紫色のドレスを着用している瑠火は頬に右手をあて、うんうんと満足した様子で頷いていた。
落ち着いたエンパイアラインのドレスは彼女をより品よく見せるデザインだ。