恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第62章 Halloween masquerade / 🌊・🔥
「わっ…? んっ」
その時、義勇の両腕が七瀬の腹部に回された。昨晩の情事を労うようにそこや腰部をゆっくり撫でる手のひらは、とてもあたたかい。
「大丈夫か」
「……うん、良い感じに気だるい」
「それは辛いんじゃないか?」
疑問符が脳内に浮かぶ義勇だが、唇に小さくあたたかな感触が届いた。七瀬からの口付けだ。
「ううん、全然……とは言えないけど。辛くはないよ。幸せ」
「……そうか」
穏やかでほっとする空気が二人に流れる。
体を起こした義勇が天蓋をまくると、窓からは眩しいけれど心地よい朝日が部屋を包んでいた。
『良い一日になりそうだ』
「良い一日になりそうだね」
「……」
「義勇さん? どうしたの?」
「いや、何でもない」
ふっと笑顔になった義勇の背中に、ぎゅっと抱きつく七瀬もまた笑顔だ。
「来年のハロウィンもここ来る? 宿泊は抽選だからわかんないけど」
「そうだな」
一年後、再びハロウィンの時期がやって来た。
十月初めの週末の事だ。
「七瀬、当たった」
「え? 宝くじにでも当たったの?」
義勇はスマホのメール画面を確認すると、キッチンで洗い物をしていた恋人にそう声をかけた。
「あ、いや。ドレスハウスの宿泊プランだ」
「………ウッソ、二年連続で行けるの??」
「どうやらそうらしい」
「え〜、何着ようかな……」
最後の食器を洗い終えた七瀬は、両手を拭いて義勇の元へと駆け寄った。
「青も良いけど、赤も着たいなあ」
「赤はダメだ、別の色にしてくれ」
「え? どうして?」
「どうしてもだ」
珍しく子供のようなわがままを言う義勇に七瀬は少し驚いたが、発言の意図を何となく察知した彼女は、後ろから彼を抱きしめた。
『赤は煉獄先生のテーマカラーだっけ。じゃあ控えよう』
事情を把握した七瀬にバレていない。そう自信を持っている義勇だが、十分後に指摘されて赤面する事態になるとはまだ知らない。
〜義勇と過ごすハロウィン〜
end.