恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第62章 Halloween masquerade / 🌊・🔥
「お前の言うとおり、俺は口下手だ。だからよく周囲の人間を困惑させる事も多い」
「うん…こんなに素敵なのに誤解されやすいから、もったいないなあって思うよ」
七瀬の頭には、数学教師の実弥が義勇にブチ切れている場面が思い浮かんでいた。
会話のテンポがかみ合わない二人はたびたびこのような状態になる事が多く、同僚の教師達は「また始まった」とあまり深刻に受け止めてはいなかったが。
「でもね、そんな義勇さんの良い所を知ってるんだーって言う優越感があるのも正直な気持ち」
「……」
「そう言うとこだよ。今少し照れてるでしょ?」
「………」
義勇は七瀬の腰から完全に手を外し、体を左に向けた。耳がほんのりと赤く染まっているようだ。
『付き合いたての頃は何で黙るんだろう?って本当によくわからなかったけど……今は凄く愛おしいな』
ふふっと小さく笑みを浮かべた彼女は、義勇の腰に両手を回しながらそっと背中に頭を乗せた。
どく、どく、とそこから伝わる鼓動と体温が心地よい。
「そろそろダンスをやってみたい。またお前と踊りたくなった」
「うん、わかった。きっと上手く出来るよ」
背中から頭をゆっくり起こした七瀬がドレスの両端を少し持ち上げてソファーから立とうとすると、彼女の腰を支える義勇だ。
ふと左横を見上げてみれば七瀬の予想通り、頬を赤く染めた彼がそこにいる。
そんな義勇に触れるだけのキスを贈った七瀬は、脳内で再度社交ダンスのルーティンを思い浮かべ始めた。
五分後、七瀬のスマホのスピーカーからワルツの優雅な音楽が流れている。
ティーブレイクでリラックス出来たお陰だろうか。二人のステップは先程よりも随分と手本の動画に近づいていた。