恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第61章 注意せよ、その風に 〜He is gale〜 / 🍃
『長友さん、何で今日に限って気を利かせてくれたんだろう?』
『アイツ…いつも三人で食べたがるってのに、どうしたんだァ?』
師範と継子は、長友の行動に対して同じ考えを脳内に抱いていた。
活動写真と言い、昼食と言い、全ては長友の策略なのだが、二人共それには全く気づいていない。
しばらく無言の時間が続くが、実弥の「美味ェ」の一言を皮切りに会話が始まっていく。
「カツがサクサクですね! タレも絶品だし、ごはんもふっくらしてて凄く美味しいです。今日お昼に丼物が食べたかったので…」
「また何でカツ丼なんだァ?」
今しがた会話に出たカツを咀嚼し、ゴクンと飲み込んだ風柱は発言した直後にこんな事を思う。
『まさかとは思うが……』
「私の勝負ごはんなんです。カツ丼食べて討伐に向かったら勝率が良い事が多くて……あっ、師範笑っても良いですよ〜頓知(とんち)でもう免疫は出来てるので」
「………」
「………」
一瞬の沈黙の後、ふっと口元が緩む実弥を見て、あははと笑う七瀬。二人の間に通り抜けるのはほわほわとしたあたたかな感情である。
「やっぱ、お前変わってんなァ」
「ありがとうございます」
「何で俺が礼を言われなきゃいけねェんだよ」
「えーだって師範の”変わっている” は大したもんだって褒め言葉だと私は捉えてますから」
「そうかい」
その後も二人は長友が作ったカツ丼を美味しそうに食しながら、会話を進めていった。
『良かった。お二人少し前進しましたね! カツ丼は鬼殺だけではなく、恋にも効き目があるのでしょうか』
隠は厨(くりや)まで届く七瀬と実弥の話し声を、頭巾の下で嬉々とした表情を浮かべながら聞いている。