恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第61章 注意せよ、その風に 〜He is gale〜 / 🍃
「そうかもなァ」
フッと笑顔になる実弥が、七瀬には等身大の二十一歳のように見えた。
入り口で券二枚を見せると店員がちぎった半券を実弥に渡す。自然な流れで七瀬に渡す彼は、普段あまり見る事がない穏やかな表情だ。
『師範、やっぱり良いなあ』
劇場に向かう後ろ姿を見た彼女は、改めてそんな事を思う。
★
「おい、沢渡大丈夫かァ」
「………うっ、はい。何とか……」
一時間後。
目的の活動写真の上映が終了し、二人は劇場の外へと出て来ていた。顔色が悪い七瀬を心配しつつも、やや呆れている実弥である。
「あんなん、作りもんだろうがァ。鬼殺の血は平気なのに活動写真の血はダメってのは……」
「鬼殺は任務って意識が常にあるし、気が昂っているので血の事まで構う余裕がないんです……!」
長友の見立ては外れた。
七瀬は流血の場面が多かった作品を観て、気分が悪くなったのだ。
鬼殺や鍛錬の様子を目にした事がある風柱は理解が出来ぬ —— そんな様子で顔中いっぱいに疑問符を浮かべている。
通行する人々の往来の邪魔にならないよう、建物の影に立っている実弥はどうしたもんかと、頭をかきながら首を傾げた。
「おィ、立てるかァ」
「……すみません、ちょっと……難しいです」
めまいと若干の吐き気を催している七瀬は、額を右手で押さえながらゆっくりと呼吸をしている。
『ここでいつまでもこうしてるわけにいかねェ…しょうがねェな』
「帰るぞォ。そんなんじゃメシも食えねェだろ」
「えっ……?」
七瀬が左に顔を向けると、そこには実弥がしゃがんで背中を見せていた。おぶって自宅に帰ろうとするつもりらしい。