恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第61章 注意せよ、その風に 〜He is gale〜 / 🍃
「あの、すみません……」
「何がだァ」
「いえ、師範の隣を歩くのが自分なんかで……」
あの後 ——— 七瀬と実弥は長友に半ば追い出されるような形で、街へとやって来た。昼も間近の浅草は観光地と言う事もあり、行き交う人々の活気で溢れている。
浅草寺(せんそうじ)、凌雲閣(りょううんかく)、仲見世通り、伝法院通り。
これらの観光名所を通り抜け、目的地の場所へと足を進めている所だ。
「わっ、怖い……」
「あの子よく横に並んで歩けるわね」
二人とすれ違う若い女子達が揃って口に出すのが、実弥の容姿だ。
眼光鋭い三白眼に、顔や着流しの袖からチラチラと傷が見える事に加えて、彼は背も高い。
「別にそんなの気にしちゃいねェよ。お前こそ嫌じゃねェのか?」
「えっ? 師範の横を歩く事が、ですか?……私は全然ですね」
「はっ、やっぱお前変わってんなァ」
鼻で笑う実弥に対し、七瀬は複雑な思いを抱くものの、彼の笑顔に胸がどきっと高鳴ってしまった。稽古で見せる真剣な顔、鬼殺で見せる凛々しい顔。
その二つとは全く違う実弥の表情に、彼女はしばらく見惚れていた。
『師範って色んな顔を持ってる人だよね。怖いかと思えば優しい部分もあるし、おはぎを食べてる時のちょっとかわいい所とか……』
ほうっとなっていた七瀬は実弥に「着いたぞォ」と声をかけられるまで、心がふわふわと浮遊していた。
自分と実弥が立っている目の前には” 電気館” と書かれた建物がある。ここは日本で初めて設立された活動写真(映画)専門の劇場だ。
劇場の看板には“ 注意せよ、その風に”と大きく書かれている。
「へえ、風が題材の活動写真なんですか。じゃあ私達に丁度良いかもしれませんね」