恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第61章 注意せよ、その風に 〜He is gale〜 / 🍃
『うわ……師範の事褒められてるのはめちゃくちゃ嬉しいけど、凄くもやっとするな…』
七瀬の箸を持った手が一瞬だけ停止する。
自分だけが知っている実弥の秘密を他の女性隊士も認識していた。
まさか、の出来事である。
「あー、沢渡さんね。確かに私もいいなあって思うよ。炎柱様はよく継子が逃げ出すって聞くけど、風柱様の指導ってどうなんだろうね」
「一回だけ見回りで一緒になった事あるよ。すっごく緊張したな〜。でもね、間違った行動はしないの。見た目も言動も怖いし、例の柱合会議の話も聞いてたけど……私はかっこいいって思ったな。だからきっと指導も悪くはないと思う」
しょっちゅう稽古から逃げ出す七瀬を叱りつけるのではなく、先日好きな事は何かと聞き、頓知(とんち)にも付き合ってくれた。憂鬱な鍛錬をほんの少しだけ、取りかかりやすくしてくれたのだ。
「善逸、食べた? じゃあもう出よう」
「う、うん……わかった」
七瀬はその場から逃げ出すように会計を済ませて、慌ただしく店を出た。一刻も早くそこからいなくなりたい。その一心で。
黄色頭の少年にとっては信じがたい事実であったが、仲が良い七瀬だけではなく、他の女性隊士がきちんと実弥の本質を認識していた。
『俺にはどうしてもあの人が仔犬をあやしてたとか、想像できないんだけど……見たって人が実際いるとなあ。七瀬ちゃんの剣技が前よりキレが出てたのも実際この目で確認した、けど……』
やはり風柱は優れた柱なのか。
しかし、善逸は柱合会議での炭治郎並びに禰󠄀豆子が実弥にされた事を知った時、心の底から嫌悪感を抱いた。
友人と好いた女子に取った言動。それをやすやすと許すわけにはいかない。