恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第61章 注意せよ、その風に 〜He is gale〜 / 🍃
『俺、どうしてもあの人に”優しい”って言う単語があてはまらないんだよね…』
黄色頭の少年は先程からずっと首を傾げ、眉間に皺を刻んでいる。
風柱・不死川実弥は七瀬いわく、とてもとても優しいらしい。
『優しい、やさしい、ヤサ……シイ?? えーっ……?』
「善逸、美味しいの? 美味しくないの?」
鰻を食しながら、頬が落ちそうな程にんまりとしたかと思えば、時々唸り声を上げて眉間に皺を寄せる。
「すっげー美味いから、すっげー味わって食べてるけど??」
「そうなの?? 時々眉間にシワが寄るから、美味しくないんだと思ったよ……まあ何にせよ残すの禁止ね」
「もちろん! 全部食べますよ〜」
鰻は大正の時代でも高級な食べ物である。
七瀬は実弥の継子となった後、階級が一つ上がった。
毎月の給金がやや増えた為、日頃から己の愚痴を聞いてくれる善逸に奢ろう。そんな考えからこうして彼の好物を共に食べている。
この後輩隊士は一見やかましく、怖がりだが、気もきくし、案外常識人だ。
『ん……? 風柱だって?』
その時、彼の聴覚が女の声を認識する。雷の呼吸を使う隊士は人一倍耳が良い。その為、常人が聞こえない音が離れた場所にあっても認識が早い。
ガラガラ……
食事処の引き戸が開き、三人の人間が入って来た。
全員隊服を着ている女性隊士である。皆が七瀬と同期の隊士だ。
「へー、風柱様が仔犬をあやしてたんだ?? 見間違いじゃないの?」
「って思うよね。でもほんとだよ。いつも殺人的に怖い方だから驚いたけど、とっても優しい顔してたもの」
「風柱様ってあの見た目だし、言う事も恐ろしいけどさ。かっこよくない? 剣技もだし、背も高いし、傷に目がいきがちだけど、見た目もかなり良いと私は思う。だから継子の沢渡さんが羨ましいよ」