恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第61章 注意せよ、その風に 〜He is gale〜 / 🍃
七瀬は胸が高鳴っていた。
実弥の顔を間近で見たのが実質初めてだったからである。白銀髪の短髪は日の光に当たると、銀と白の釣り合いが綺麗で触り心地も良さそうだ。
右半分に多く傷が刻まれているが、子作りの顔にのっている眉毛・閉じた瞳・鼻・口元の配置は非常に整っている。
『あー師範、凄くまつ毛長い……羨ましいなあ』
普段は眉間に皺がよく刻まれ、怖い印象を周囲に与えがちな実弥だが、瞳を閉じて真剣に物事を考えるその表情は、大層親しみやすい。
七瀬がほうっと見惚れていた瞬間、ぱちっと三白眼の大きな双眸が開き、彼女の心臓はトビウオが水面に飛び出てくるかのように、勢いよく跳ね上がった。
「?、どしたァ」
見惚れていました —— などと正直に言えるはずもなく、どんな問題が飛び出るのかずっと気になっていたのだ。嘘ではない返答を実弥にした。
「思いつき、ました?」
「あァ、俺も風にちなんだ物にしたぜ……作麼生(そもさん)」
「あ、はい……説破(せっぱ)」
「風には色んな種類があるよなァ。向かい風、追い風、つむじ風、そよ風に木枯らし、それから台風。風の中でもどこを吹いてんのか特にわからねェもんが一つある。これの答えは?」
「えっ……予測出来ないって事ですか?」
「んー…知らない顔をするつった方が良いなァって、ほとんど答え言ったぞ」
「うーん…?」
顎に手をやり、目を閉じた七瀬はゆらゆらと体を左右に揺らすが、答えが導き出せない。
「すみません、降参です!難しいですね……どんな風なんですか?」
「どこ吹く風。これが正解だァ」
「あっ……なるほど!確かに知らない顔をする風だ……!」