恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第61章 注意せよ、その風に 〜He is gale〜 / 🍃
「沢渡、お前の好きな事は何だァ? 教えろ」
「す、好きな事? ですか?」
「そうだァ」
風の継子は師範に担がれ、五百回の素振りをする前にこんな事を問われて困惑していた。
予想外の質問が飛び出したからだ。
「俺は継子を持った事がないからよくはわからん。しかし甘露寺とたまに手合わせをすると、常に楽しそうにしている。理由を聞けば” 伊黒さんとする事は何でも楽しいし、好きなの”と言うのだ。沢渡の好きな事が何か聞いてみると良いんじゃないか?」
……惚気なのか、助言なのか些か(いささか)判断がしかねる発言である。
実弥にこれを伝えたのは、もちろん蛇柱の伊黒小芭内。風柱はネチネチしているが、嘘をつかない彼の性分を気に入っている。
「…笑いませんか?」
「そりゃ言ってみないと、わかんねェなァ」
「じゃあ言いません」
「笑わネェよ。言ってみろ」
「………ん、ち」
「?…よく聞こえねェ」
「頓知(とんち)!! です……」
実弥は想定外の応えが目の前の人物から飛び出し、一瞬だけ思考が止まった後、ふっと口元を緩めた。
じとっと目を細めた継子に「悪ぃ」と謝罪する事を忘れずに。
……以上が冒頭のやりとりに行き着くまでの経過である。
★
「……答えは風車です」
「はっ、なるほどなァ……」
実弥は左の掌を右の握り拳で、ポンと軽く叩いた。
「どうです? なかなか面白いでしょう? 因みに今の問題は私が考えました。師範もほら、何か出して下さいよ!」
「あァ? 面倒くせェなあ」
とは言うものの実弥は顎に手をかけ、目を閉じて思案を始めた。
不器用な為、かなりわかりにくいが彼は元来優しい人柄である。