恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第60章 feliz cumpleaños / 🎴・🌫️ ✳︎✳︎
「おかえり」
「えっ……無一郎くん、起きてたの」
草履を脱ぎ終わり、脱刀した七瀬はまるで幽霊でも見たような表情をしている。
「毎日鬼殺で起きている時間帯だよ。体がすっかりそれ仕様になっててさ」
「そっか……そうだよね」
湯浴みがしたいと言う彼女に、夜食のおむすびが厨(くりや)に置いてあったよと伝えると「食べる!」と目を輝かせて言う恋人。
本当に君は食べる事が好きだよね。
「おむすびね、一個だけ形が不恰好な物があったんだけどそれが本当に美味しかったよ」
「ふうん、そうなの」
素知らぬ顔をして、応えた。
そのおむすびは僕が握った物だ。夜食を用意している本田さんに声をかけると、さっき帰宅した時の七瀬と同じ表情をしていたっけ。
この家の女の人達は、何でこんなに失礼なんだろう。
湯浴みが終わり、話がしたいと言う七瀬は僕の部屋に来ている。恋仲になって互いの部屋を行き来する事は頻繁になったけど、こんな時間に任務以外で二人一緒にいるなんて初めてだ。
「無一郎くん、誕生日おめでとう」
「ありがとう、でもそれ今朝も聞いたよ」
「ふふ、そうだね」
「…………」
「…………」
互いの間に訪れる沈黙はいつもの事。でも今は何だか雰囲気が違う。日付が変わった深夜と言う時間もあるのかもしれない。
「あのね、」
「どうしたの、稽古する時よりも真剣な顔して」
何で僕ってこう言う言い方しか出来ないんだろう。七瀬と二人きりになると、いつもこうなんだよね。
「うん……今夜はせっかく無一郎くんと二人でいれるから…その」
正座をしている彼女の両手が膝の上でグッと力が入る。僕はゆっくりとそこへ自分の両手を乗せた。
「何? 俺とどうしたいの?」
「……! う、うん……!」