恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第60章 feliz cumpleaños / 🎴・🌫️ ✳︎✳︎
七瀬が人数分の皿に乗せてくれたとるてぃーじゃ。
突き匙(=フォーク)を持った右手で、くさび型に切られた卵生地の先端を少し取って口に入れた。
ふんわりとした卵と野菜が混ざったそれは甘くなく、塩の味が口内に広がって行く。
「何か疲れが取れる気がする。暑い時は水分だけじゃなくて、塩分も摂取するようにって胡蝶さんから聞いた事あるんだけど……こう言う意味なんだね」
「それ、私もしのぶさんから聞いた事ある! 塩分って大事なんだなーって凄く思ったんだ」
「赤い米飯も美味しかった。けちゃっぷだっけ? 凄く好みの味」
「うん、私もケチャップの味好きなの。トマト好きにはたまらないんだ」
記憶を取り戻す前の僕は、食事なんてただ食べて消化して排泄する。ただそれだけの行為だとずっと思ってた。
生きていく為に必要な最低限の欲。
でもそれは七瀬と恋仲になって変わった。
食事をしながら交わす会話は思いのほか、楽しい物なんだなって感じる事が出来るようになった。
「ごちそうさま」
「え、無一郎くん。もう良いの?……って」
「何? 全部食べたのがいけなかった?」
「ううん、ありがとう。二つとも食べてくれて」
……彼女はまた嬉しそうな顔をしていた。
★
「何か無一郎くんに見送られるって変な感じ」
「お館様から珍しく非番って言われたんだ。だからこんな事もあるんだよ」
この日の夕方、僕は玄関にいた。これから任務へ出かける七瀬を見送る為だ。
「七瀬さん、ご武運を。お帰りお待ちしております」
「本田さん、ありがとうございます! それじゃあ行って来ます」
「……気をつけて」
「無一郎くんもありがとう!」
玄関の扉を開いて、七瀬は鬼が待つ場所へと向かった。