恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第60章 feliz cumpleaños / 🎴・🌫️ ✳︎✳︎
「七瀬、それ以上泣くと酷い顔になるよ」
「う、ん。わかって、る……グスッ」
西側の空に視線を向けると、清涼感があった水色から夕方を表す茜色にすっかり変わっていた。
もうすぐ夜、僕達鬼殺隊の活動時間でもあり、鬼達の活動時間でもある。
「もう大丈夫……ごめん、迷惑かけた」
「別に迷惑かけられてないよ」
彼女の手をぎゅっと握ると、僕の手を握り返してくれる。それから一分も経たない内に、七瀬は涙をひっこめた。
「ありがとう。無一郎くんいてくれて良かった」
「僕、何もしてないんだけど……」
次の瞬間、ふわっと自分の体が包まれた。
ありがとうと耳元でもう一度お礼を言われた僕は、自然と彼女の背中に両腕を回していた。
自分よりほんの少しだけ細い七瀬だけど、こうやって抱きしめる度にこの子を大切にしたいと思う。
「行こうか」
「うん」
★
「お疲れさま、じゃあ僕帰るから後はよろしく」
「はい! 霞柱様もお疲れさまでした」
午後十一時半、僕は一般隊士の二人と無事に銀座の見回りを終えた所だ。
鬼とも遭遇せず、奇妙な事件も起こらない。以前は正直つまらないな、と感じていた。
でも七瀬と恋仲になって、兄さんの記憶を取り戻して…
それはとても貴重な出来事なんだと、日々実感させられている。
日付が変わる三十分前の時間帯の銀座は、昼間の喧騒とは姿を変えていて、一部の飲食出来る店以外はどこも屋内の電気を消灯している。
本当あんなに騒がしいのに、夜は全く別の街だよ。小腹がきゅるきゅると鳴いたけど、外食を殆どしない僕は店に立ち寄る事はしない。
だから真っ直ぐ自宅への道を足早に急いだ。もちろん鬼の気配がどこかに紛れていないか、意識を集中させる事も忘れずに。