恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第60章 feliz cumpleaños / 🎴・🌫️ ✳︎✳︎
兄さん —— 双子の兄の有一郎は、真夏の暑い夜に死んだ。鬼に殺されたんだ。
夜でも蝉が鳴いてて……そいつは音もなく現れて、まず兄さんを襲った。
「無一郎、逃げろ!!」
「えっ、兄さ………!」
バン!! ———
自分の左側を何かが通り抜け、後ろの壁に当たった。
「何だよ、この家は。ガキ二人しかいねえのか……」
「うっ……はあっ……」
蹲った兄さんの左腕は肘から先が無く、血がダラダラと流れている。震えながら後ろを見ると ——— そこにはちぎれた腕の先が転がっていた。
「兄さん!! 」
僕は左腕を押さえている兄に駆け寄って、抱きしめる。
兄さんは震えていた。目の前にいる化け物は僕達を見下ろしてあざ笑う。
「うるせえ、騒ぐな。ぐだくだ言った所でお前らみたいな貧乏木こりの命なんざ、何の役にも立たねえ。どうせいてもいなくても変わらないんだからよ」
★
「って言ってもさ、兄さんとは仲が良かったわけじゃないんだ。死に際に僕に語りかけてくれた言葉を思い出して…ああ、自分は兄さんに守られていたんだって実感してさ」
「うん……うん……」
門扉まで歩きながら話をしてたんだけど、彼女は泣き出してしまった。僕はもうとっくに昔の事って受け入れているから、大した話じゃないと思って話した。
……でも七瀬にとっては違ったみたい。
「ごめんね、ひっく……無神経な事言っちゃ、グス……」
「どうして君が泣くの。自分の事じゃないでしょ」
「うん、確かに、そうなんだけ……ど」
他人の為に泣く、かあ。
前の僕なら考えられなかった事だけど、今……自分の事よりも大事にしたい恋人がいる僕なら。
もしかして、そんな事も出来たりするのかな。