恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第59章 左目に夜華(よばな)が咲く / 💎
「おう、お前もう体は良いのか?」
「ありがとうございます。俺も甘露寺さんも回復が早くて里の人達に驚かれましたよ」
「はは! そりゃー良かったわ」
声の主は霞柱・時透無一郎。
白群色(びゃくぐんいろ)の双眸と腰まで伸びた長髪はサラサラとしている。七瀬と合同任務をした柱の内の一人だ。
彼は手に持っていた小さな花を墓前に供え、しゃがんで手を合わせた。因みに無一郎が持参した花も天元と同じスターチスだ。
「これ、意味知ってて持って来たのか?」
「ああ…はい、そうです。花屋の看板娘って言うの? その女の子に墓参りに行くんだけどって伝えたらこの花が良いんじゃないかって。いつも命日の近くになったら買いに来るお客さんがいるんだ…とも聞きました」
「あー、それ俺だな。あそこだろ?久住生花店」
多分そう、と頷く霞柱だ。
天元は上弦の伍を討伐した彼を労い、そして礼を伝える。一瞬何故自分がそんな事を言われるのか困惑した無一郎だが、七瀬の事を伝えると合点がいったように数回頷いた。
「俺も彼女と同じだったんです。刀が刃こぼれしていた時に上弦と戦いました。自分はあの時刀鍛治の人達が近くにいたから、血鬼術から抜け出る事が出来たし、新しい日輪刀で戦う事が出来た」
「そうか、良かったな」
「俺、タラレバを言うのってあまり好きじゃないんだけど……彼女も一人じゃなかったら結果は違ったんじゃないですか?」
「そーかもな」
二人の会話はその後途切れたが、そこにあった空気は終始穏やかな物であった。
「じゃーまたな」
「はい……あの」
「ん?何だ」
「ここにまた、来ても良いですか?」
墓地の入り口で無一郎は、天元にそう問うた。
「たりめーだろ。俺からも頼むわ」