恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第59章 左目に夜華(よばな)が咲く / 💎
七瀬の通夜と葬儀は滞りなく終わり、初七日が過ぎた。
「桑島さんありがとうございます、こちらまでいらして頂いて」
「愛弟子がいなくなると言うのは、今までもありはしたが…流石に今回はのう」
天元は客間で座卓を挟み、とある男と向かい合って座っていた。
小柄だが、羽織からチラリと見える両腕は筋肉が程よくついており、背筋もピシッと伸びている。
元・鳴柱の桑島慈悟郎。彼は七瀬の育手だ。
「七瀬はわしにとって初めての女弟子でな。もちろん稽古は男も女も関係なくつけて来たんじゃが……特に自分を慕ってくれた。それが嬉しくてなあ。しょっちゅう逃げ出す弟弟子をよく連れ戻してくれた事もあったのう」
「お節介でしたからね…想像出来ます」
「そうか! この家でも七瀬は自分らしく過ごしておったんじゃな」
「ええ、俺には三人嫁がいるんですが、彼女は嫁達とも仲が良かったですよ」
「なんと! 話には聞いていたが、本当にそうなのか。ええのう〜羨ましいわい」
「桑島さんに言って頂けると派手に嬉しいです! 俺も沢渡からあなたの柱時代の話をお聞きした事があるんですが……」
天元は自分が元・忍びだと言う出自、それから里での風習の為に三人娶った。これらの身辺事情を慈悟郎にぽつぽつと話していった。
「そうか、おぬしも鬼殺隊に入るまでは色々あったんじゃな」
「ええ、まあそれなりに」
天元と慈悟郎はこの数分間のやりとりだけで、かなり打ち解けていた。
師範と育手。
同じ系列の呼吸を使用していた。
体に欠損箇所がある。
この三つの共通点が、また互いの距離を近づける要因になった。