恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第59章 左目に夜華(よばな)が咲く / 💎
閉じられたそこには上から下に向かう、小指一本分の長さの切り傷が刻んであった。血は当然ながらもう止まっている。
「天元様と同じ箇所ですね。左手首からも血を流していたそうですし、少し重なってしまいます」
「上弦と戦っただけじゃなくて、何で怪我する所まで同じなんだろーな」
七瀬の左半身側に並んで座っている天元と雛鶴は、体温を失くした彼女の左手と右手をそれぞれ握った。
「おい、握り返せよ」
「……七瀬ちゃん、まだ一緒に作りたかった料理があるの。私の手、握ってくれないかな」
「……」
返答は当然ながらない。雛鶴の両目から再び涙が静かに流れ出る。
「天元様……葬儀屋さんに連絡して、お通夜と葬儀の手配をお願いしました」
天元が泣いている雛鶴の肩を撫でていると、いつも元気な須磨が意気消沈した様子で静かに部屋に入って来た。
「明日お通夜、明後日が葬儀です…七瀬ちゃんと親交があった一般隊士の皆さん、それから柱で交流があった蟲柱様と恋柱様、以前任務を一緒にされた霞柱様と水柱様にも……文を出しました」
「おう、須磨もまきをもありがとな! はやぶさには苦労かけるがこれも大事な仕事だ」
「………うっ……七瀬ちゃ……」
「美味しい、ひっく……三色だん、ごも見つけた……んですよ」
一度涙を引っ込めた須磨とまきをだが、部屋に入って七瀬を見た瞬間、また涙を溢れさせてしまう。
「おい、お前ら。泣くのは今日だけにしろよ。当日は笑って見送ってやろうぜ」
ぽん、ぽん、ぽんと雛鶴・まきを・須磨の頭を撫でた天元。
彼はわんわんと泣き出す三人を抱きしめながら、自分も嫁達に気づかれないように、目頭をほんの少しだけ熱くさせた。