恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第59章 左目に夜華(よばな)が咲く / 💎
それから二日後、七瀬は隠に背負われて宇髄邸に無言の帰宅をした。
「初めまして、私は山口と申します。この度はご愁傷様でした。おととい沢渡さんを刀鍛治の里へ送っていく為に、こうして……背負い……」
女性隠は七瀬に逃がされ、助けを呼んで来ると言って里へ一旦向かった。そして刀の修復並びに湯治に来ていた鬼殺隊士を数人連れて別れた場所へ戻ったのだが ——
「申し訳あり、ません…道中崖崩れしている場所…があり、まして。迂回したら時間が予想以上、にかかって、しま…い……夕方、に…」
七瀬を背負ったまま、その時の事を思い出しているのだろう。体を震わせて涙を流す山口に対し天元は「あんたのせいじゃない」と即座に否定した。
「沢渡さんの、育手である桑島様にも…今回の訃報はお伝えしています」
「そっか、わかった。あんたもここまで連れて来てくれてありがとな。後は俺と嫁達で引き継ぐから……」
頭巾が濡れるのも構わず、ひとしきり泣いた山口は七瀬を天元に預け、宇髄邸を失意のまま立ち去った。
『寝てるだけに見えっけど……』
横抱きにした七瀬の体は冷たく、顔にも赤みはとうにさしていない。
「天元様、私も行きます。まきを、ごめんね。須磨を落ち着かせてあげて」
「ひっく…わかっ……ひっく、た」
目も鼻も真っ赤に染めながら涙を流すまきをは、人一倍涙を流している須磨をしっかりと抱き止める。
「須磨! あんた……泣き、すぎ……!」
「ひっく、だっ…ひっ、七瀬ちゃんともう、話せ…ないなんて、ひっく……嫌です……!」
★
それから二十分後、七瀬は布団に寝かされていた。ここは彼女が生前使用していた部屋だ。
女子らしい小物や、化粧品、衣紋掛けには非番の日に着用していた着物がかけられている。
「まきをも言っていましたけど……昨日の朝見送ったばかりなんですよね」
「…そうだな」