恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第59章 左目に夜華(よばな)が咲く / 💎
『須磨だけじゃねぇ、雛鶴とまきをもこのじーさんにほだされてた。七瀬の言う事、まじみてえだな』
慈悟郎は鳴柱時代、多くの女性に慕われていた。
それは歳を重ねても健在のようで、ほんの数分だけの会話で三人の嫁達の心を掴んでしまった。
「どうした。宇髄殿! 腹でも壊したか?」
「いえ、平気です。お気になさらず」
『やべぇ、マジで腹痛くなって来たかも……』
天元は動揺を振り切るように、目の前の湯呑みに入っているほうじ茶を飲み干すと、改めて姿勢を正す。
「桑島さん! 」
「ほいほい、何じゃ?」
七瀬は育手と対峙している天元が、いつもの姿とは程遠い姿を見ている内に、心配になって来ていた。
『慈悟郎さん、笑ってるんだけど何か怖いなあ。どうしてだろう?』
彼女はやはり恋愛事に疎いようだ。目の前で静かに繰り広げられている戦(いくさ)に全く気づいていない。
「俺は忍びの家系の生まれです。里の風習により、十五になった歳に妻三人を娶りました」
「ええのう、あんなべっぴんな子を三人も。羨ましいわい」
『……くそっ、調子狂うな。このじーさん』
決意を秘め、慎重に言葉を紡いでいく天元だが、慈悟郎の飄々とした対応に戸惑いが隠しきれない。
「もったいないお言葉です。そんな立場からこのような事を伝えるのもおこがましいのですが……」
それでも言わなくては。
この思い一択で七瀬の育手に引き続き話をしていく。
「何かのう」
口髭を触りながら、やはり飄々としている慈悟郎の本心はこうだ。
『ふむ。流石は上弦と戦い生き残っただけあって、胆力はなかなかのもんじゃ。このまま様子を見るか』
元鳴柱・桑島慈悟郎。彼はなかなか食えない男のようである。