恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第59章 左目に夜華(よばな)が咲く / 💎
「久しぶりじゃの! 七瀬、元気にしておったか?」
客間に案内されているのは、元・鳴柱の桑島慈悟郎。先ほど須磨が言っていた通り、七瀬の育手だ。彼は柱時代に右足を欠損した為、隊士を引退している。
「足がこれで、行儀が悪くてすまんなあ」
「いえ、俺の方こそ申し訳ありませんでした! 」
慈悟郎が正座できずに詫びると、天元は先程の「誰だ?」発言を慌てて詫びる。
いつも堂々としている彼の姿しか見た事がない七瀬は、おかしくなったようだ。
『何か天元さん、かわいいな』
「挨拶が遅くなってすまんの。わしは桑島慈悟郎。宇髄殿の隣に座っておる七瀬の育手じゃ。娘のような弟子がそなたの継子として世話になっていると言う事で、こうして出向いて来たんじゃが……」
慈悟郎は雛鶴が淹れたほうじ茶を一口啜ると、ほうと深く息をつく。
「初めまして、桑島さん。元・音柱の宇髄天元です!! 遠方からいらして下さり本当にありがとうございます! 本日は一体どのような用件で……」
ピシッと姿勢を正し、大きな体を折り曲げて慈悟郎に挨拶をした天元は大層緊張していた。
この頃合いで恋人の育手が来訪する。それは即ち七瀬との仲が伝わったからだろう。
『まっじーな、俺の継子なんかやめろとか言われんのかな…ぜってぇ応じないけど!!』
正座した膝に置いていた右手をグッと握る天元の背中に、つつつ…と冷や汗が流れて来たその時。
「宇髄殿、顔を上げてもらえるか?」
「あ、はい! わかりました」
恐る恐る頭を上げた先には、予想外の光景があった。それは満面の笑みで天元を見つめている慈悟郎の姿である。
「おぬしは本当に男前じゃのう! 言うても、まあわしの若い頃には敵わんがな」
「は……はあ。そうですか……元・鳴柱の方にそう言って頂けるのは光栄です」