恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第59章 左目に夜華(よばな)が咲く / 💎
「やべー。お前おれの予想を軽く超えすぎ」
「そ、そうなんですか?」
「おう」
天元は七瀬の細く小さな顎を持ち上げると、先程も何回か吸い付いた彼女の唇に再び柔らかな口付けを二度ほど落とす。
「それからお前にはまだまだ指導したい事が山ほどある。だからこの家出ていくなんて馬鹿な事、考えんのやめろよ」
「……バレバレですね、流石です…」
「たりめーだろうが!! 」
七瀬は思う。
きっと自分はずっと天元には敵わないのだと。
「あの、じゃあ……これからもよろしくお願いしますね。師範…って痛い!! やめてください……」
彼女の鼻が思い切りつねられた。
「おい!もう戻ってるぞ。今後俺と二人でいる時は名前で呼ぶ事! 」
「ふふっ、はい……!天元さん」
「やっぱお前にそう呼ばれんの、最高」
再び天元は恋人に口付けを贈った。今度は啄むそれだけではなく、やや深めの愛撫をだ。
部屋に差し込む障子窓の隙間からは、あたたかな陽光が柔らかく差し込んでいる。
こうして元・音柱とその継子の間に生まれた恋は、春の訪れと共に開花したのであった。
その一ヶ月後の四月下旬。
天元の屋敷を一人の男が訪ねて来ていた。応対しているのは須磨である。
「えっと……七瀬ちゃんの育手さんですか?申し訳ないです。今、ちょうど夫と買い物に出掛けてて……」
「ただいまー! 今戻ったぜ。ん?誰だ。そのじーさん」
「ただいま戻りましたー!…って、えっ慈悟郎さん??どうしてここに……」
着流しに羽織を纏っている天元と、着物姿の七瀬が丁度頃合いよく帰宅した。