恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第59章 左目に夜華(よばな)が咲く / 💎
「おい、こっち来い」
「え、あ? はい……」
再びそろりそろりと足を進め、天元に近づく七瀬である。
「へったくそな忍び足だなー! お前、くのいちにはなれねえぞ」
「隊士としてやっていけてるから、別に構いません」
二人の距離は五十センチまで近づいた。
稽古時はこの距離感より接近した事もあるが、それ以外では初めてだ。七瀬はドクン、ドクン、と心地よく跳ねる心臓の鼓動にやや驚いている。
『師範……やっぱりかっこいいな』
左には包帯が巻かれているが、右は普段の臙脂色(えんじいろ)の瞳がある。見られている —— それを認識した彼女はボッと腹の中心から熱い物がせり上がって来た事に大層戸惑った。
「上弦の鬼達を倒したのは良かったけど、奴らの毒がなかなか厄介でさ。こりゃマジで死ぬかもな……って覚悟した瞬間、竈門妹が毒を消してくれた」
「はい、聞きました。禰󠄀豆子にとっても感謝しています」
「鬼に感謝ってのもおかしな話だが、竈門妹はなんつーかちょっと特殊だよな」
「ええ、あんなに愛くるしくてかっこいい鬼はそういません」
七瀬は禰󠄀豆子の兄である炭治郎との合同任務時、禰󠄀豆子に助けられた事がある。炭治郎と同じように家族を鬼に殺され、鬼殺隊への門をくぐった。
だから鬼に対しての印象は悪い物ばかりだったが、禰󠄀豆子を初めてみた時 —— そんな考えが一瞬で覆されたのだ。
「解毒してもらうまで、マジで死ぬかと思った。散々毒を摂取して来て耐性が出来てるからって、慢心もあったのかもしんねえな」
「師範……死ぬかと思ったって、さっきも言ってませんでした?」
「あ?そういやそうだな。まだ毒が残ってんのか?俺…」