恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第59章 左目に夜華(よばな)が咲く / 💎
そろりそろりと、天元に近づく七瀬。
『鬼の毒は禰󠄀豆子が飛ばしたって聞いたけど……』
布団に横たわる彼は左目に包帯が巻かれており、そのまま視線を下に辿っていくと、左手にも包帯が丸く巻きつけてあった。
『上弦と戦って左目と左手の欠損だけで済んだ。でももう師範は……』
柱は引退する。
これは雛鶴からの手紙で知った事だ。
『私、この家出ていかなきゃいけないのかな』
自分にいつも豪快な態度で、明るく接してくれる天元の事を七瀬は慕ってきた。一つは文字通り師範として。もう一つは異性としてだ。
そして継子としてだけではなく、家族として接してくれる三人の嫁達。彼女は一人一人の事が大好きである。
しっかり物の雛鶴、さばけているまきを、かわいらしい須磨。
三者三様の個性を持つ嫁達は、いつだって自分に好意的に接してくれる。
「手伝ってくれるの? ありがとう!とっても助かるわ」
「七瀬ちゃん! ほら、背中! シャキッと伸ばして!」
「うわーん!! 七瀬ちゃ〜ん、まきをさんに思い切り頭を叩かれました〜」
三人とのやりとりを思い出すと、涙がじわっと滲む七瀬である。
『もっとこの家にいたいけど、師範が引退するんじゃきっと師弟関係も解消だよね』
グスッと鼻を啜る彼女は、これ以上この部屋にいると泣いてばかりになると判断し、そっと退出しようとしたのだが……。
「たくっ、メソメソすんじゃねーよ。俺は生きて帰って来たんだぞ?」
「んなっ?! し、師範! 起きて大丈夫なんですか??」
むくっと起き上がる天元に心底驚いた七瀬は、心臓を凄まじく跳ねさせた。
襖に手をかけていた所だが、後ろを向いたまま体が硬直してしまっている。