恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第59章 左目に夜華(よばな)が咲く / 💎
「慈悟郎さん?って誰だ」
「私の育手です。おじいちゃんですけどね」
天元はここで不思議に思う。
何故じいさんと評される年齢であろう師を、下の名前で呼んでいるのか。それを彼女に伝えるとこんな返答が発せられた。
「稽古初日に言われたんですよ、おなごには名前で呼んでもらいたいって」
「はあ?なんだ、そりゃ。どんな色ボケじーさんだよ」
「ご本人に直接聞いたわけじゃないんですけど、多分慈悟郎さんは柱時代に物凄ーく女の人に慕われていたんじゃないかなって。見取り稽古で見せて貰った雷の呼吸、めちゃくちゃかっこよかったし」
この時、天元の胸にチクンと痛みが走った。
針のような小さな小さな物であるが、確かに彼の胸を突いたのである。
「師範と慈悟郎さん、少し似ている気がします。同じ系列の呼吸を使うし、柱を務めてたし。お二人足も速いです!」
「おいおい、俺をじいさんと一緒にすんなよ。地味に落ち込むぞ」
あははとカラッと笑う七瀬の笑顔が天元には眩しく映った。
「あれ?私数分前まで暗かったと思うんですけど、師範と話してたらモヤモヤが吹き飛んだ気がします。ありがとうございます」
「そーかい、そりゃ良かったな」
「はい!安心したら、お腹空きました。だから昼食のお手伝いをして来ます」
「へいへい、頼むな」
七瀬は空になった二つの湯呑みを盆に乗せると、足取り軽く厨(くりや=台所)に向かって歩き始めた。
『さっきのあれ、何だったんだろ……』
胸の中心をツキン、と小さく突いた針。これを天元が実感するのは後もう少しだけ先だ。
そしてその時、彼はどうするのか ———
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