恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第59章 左目に夜華(よばな)が咲く / 💎
「ふう」と柔らかな息が一つ聞こえたと同時に、チンと刀が鞘へ納まる音が聞こえた。
はらっと舞い上がった無一郎の長髪が、元の腰の位置まで戻る。
「霞柱! あのっ……」
「ねえ、君さ。その槍は飾りなの? 刀と違う得物を持っているって事は他の隊士と異なる戦い方をするんじゃないの?」
「………! 申し訳、ありません……」
「別に謝らなくてもいいよ。僕の見通しが甘かったんだなってわかっただけだから」
「えっ……」
無一郎は七瀬に向けていた顔を前方に戻すと、その場を静かに去った。
★
「痛い所を突かれすぎて、ぐうの音も出ませんでした」
「あいつらしーな」
はあ、と大きくため息を吐ききった七瀬は湯呑みに残っていた茶を全て飲み干す。
「でもよ、時透お前に期待してたんだな」
「えっ?」
「自分の見通しが甘かったって事は、そう言う事だろ」
「期待?あの霞柱が私に?」
そーだよ、と発した天元はポンと右手を継子の頭に乗せた。
「時透の言う通り、鬼殺隊士の多くは一本の刀しか使用しねえ。お前は槍だろ?まあ俺も二本の刀を使うけどさー。槍は目立つよな」
「確かに自分以外に、槍を使う剣士はいないですね」
“七瀬の槍は、迷いを薙ぎ払う刃じゃ。仲間がそんな状態に陥っていたら、それを鬼の頸と共に断ち切ってやれ”
これは彼女の育手の元・鳴柱である桑島慈悟郎の言葉だ。
「兄弟子がいたんです。甲(きのえ)になった途端、鬼に殺されて……。彼は槍の使い手でした」
「そっか。じゃあそいつの遺志を継いだって事か」
すると、七瀬は首を横に振った。
「そんな立派な物じゃないんです。慈悟郎さんに槍が向いているんじゃないかって勧められて……」