恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第59章 左目に夜華(よばな)が咲く / 💎
それから一ヶ月間。
七瀬は天元に言われた通り、朝の鍛錬前に音柱邸から隣町までの走り込みをほぼ毎日こなした。
途中県外に向かう任務が入る事もあり、中断する時もあったが、それ以外の日々はとにかく基礎筋力向上に励んだのだ。
その結果は ——
「雷の呼吸・伍ノ型 —— 熱界雷(ねつかいらい)!」
下段から上段へ切り上げる斬撃を出した後、五つの高速連撃である弍ノ型を放つ、と言った攻撃も可能になった。
『っと! あぶねーあぶねぇ。だいぶ速くなったな……俺も呼吸出すか』
スウ、と天元の呼気が変化する。
『師範の呼吸が変わった……!! 来る!』
わずかな空気の揺れを聴覚で捉えた七瀬は、短槍を握り直す。そして天元からの攻撃に備える為、右足を後方へ下げて体勢を整える。
「音の呼吸・壱ノ型」
「轟(とどろき)!!」
ドドドドン!!!と両手に持っていた木刀が地面に叩きつけられる。爆発したかのような音が彼の周囲から聞こえ、七瀬の聴覚にもやや刺激を与えた。
『うっ! 木刀二本でこの爆発音か…』
一時的に鼓膜に壁が出来たかのように、聞こえづらくなった彼女だが、聴覚以外の感覚を集中させる。
瞬間、ぞくっと悪寒が七瀬に走った。
ブン、ブンと鋭い横一閃が二度程襲うが、持っている短槍で応戦する。
「へえ、一旦耳がダメになっても他で補えるか」
「……、はあっ……はっ」
天元の壱ノ型により発生した煙が晴れる。
すると庭の中心に現れたのは、彼の二つの木刀を受け流したものの、ヒビが入った短槍を両手に持っている七瀬だった。
「もう、師範……何なんですか! この呼吸は! 木刀でこんな音が出るなんて……」
耳鳴りが治まった七瀬は、涙を流しながら訴えた。