恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第59章 左目に夜華(よばな)が咲く / 💎
涼しい表情を崩す事なく、汗もあまりかいていない天元。
対して、顔から滝のように……とまではいかないが、程よく汗を流している七瀬。
彼は継子の頭に大きな掌を乗せ、ポンポンと二度程触れた。
『……! 大きい手だなあ』
「わっ、ちょっと! 師範何してるんですか!」
「んー?継子の筋肉量の確認。おい、おとなしくしとけ」
七瀬の頭から天元の掌が離れたと思うと、彼はそんな事を呟きながら彼女の両肩と背中をぺたぺたと触っている。
それからふーん、と納得したように一つ頷いた天元だ。
「お前、槍使いの割には上半身に筋肉あんまついてないのな」
「うっ、気にしている事を……」
七瀬は普段から懸念している事を指摘され、ぐうの音も出なかった。
「今は技術で何とかなってっかもしんねーけど。それじゃあ、いつか鬼にやられるぜ」
「うう、それも自覚しています」
はあ、と大きなため息をつく七瀬である。
「って事で、今日から一週間は基礎筋力向上だな。そこ中心に鍛錬すっから」
“付いて来い、行くぞ”
ふっと彼女の前から一瞬で姿を消した天元は、あっという間に庭の中心からニ十メートル先の門扉へと移動していた。
『えっ、いつの間にあんな所まで!!』
天元は元・忍びだ。
故に速く動く、又は姿を消すなどの行動により、相手を撹乱させる事はお手の物なのである。
「おーい、沢渡! 早く来いよ」
「は、はい」
継子は急いで短槍を立てかけに行き、師範の元へと足を進めた。
★
一時間後 ———
「はあ、はあ、はっ……! はあっ」
「途中でバテる前提で隣町まで行ってみたが、こりゃ嬉しい誤算だな。喜べ!毎日の鍛錬前の日課にしてやる」
“今日と同じ道順を辿って、ここまで戻って来る事”
そんな課題を七瀬に課したのであった。