恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第59章 左目に夜華(よばな)が咲く / 💎
「わかってんのか?後一回しかねえぞ」
「もちろんです……! 必ず抜かせてみせますよ」
へいへい、と七瀬の目の前にいる大柄な男は余裕の表情を見せる。
彼は宇髄天元。鬼殺隊の音柱を務める、筋骨隆々の剣士だ。ここは彼が三人の妻と住む音柱邸。
庭先で対峙しているのは、三日前より天元の継子になった一般隊士の沢渡七瀬だ。
「俺から得物を抜かせてみろ」
そんな課題を告げられた七瀬は血眼になって、背中に背負っている木刀を抜かせようと取り組んでいる所だ。
彼女の使用呼吸は、基本の五大呼吸の中で最速を誇る雷の呼吸だ。
対し天元が使用する呼吸は、雷の呼吸から派生した音の呼吸である。
呼吸だけで考えれば、継子に分があるように見受けられる。
しかし、天元は鬼殺隊の中で最高位の剣士の”柱”であり、且つ柱の中で随一の俊足なのだ。
加えて柱と一般隊士では経験値が圧倒的に違う為、いかに最速の呼吸を使用する七瀬でも、天元との力量にはかなりの差がある。
「雷の呼吸 —— 」
継子が持つ木製の短槍(たんそう)の周囲に、バチっと黄色い稲光が纏われる。
放たれたのは壱ノ型の霹靂一閃。
目にも止まらぬ電光石火の剣技だが、天元は「まだおせぇな」の一言と共に難なく避けた。
『お、連撃を仕掛けてくんのか』
初日・二日目・そして今日。
一回の攻撃しか出来なかった七瀬だが、三日目にして連撃で打ち込む —— その戦法で彼に向かっている。
「肆ノ型・遠雷!!」
この型は壱ノ型同様に横一閃の斬撃だが、抜刀術ではない。
その為速度は劣るが、構えを取る必要がないので、短時間でも標的に攻め込む事が可能なのだ。
———カン!! と音柱邸の庭に、得物同士がぶつかる音が響いた。
「よっしゃ! この短期間でよく俺に抜かせたな」
「あり、がとう…はあっ……ございます……」