恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第58章 Evviva!(エッビーバ) / 🔥 ✳︎✳︎
「……嫌か?」
「まさか」
私の肩を掴んでいる左手がその返事を了承と受け取り、更にぐっと彼の体へと引き寄せられる。
トク、トク、トク……と緩やかに波打っていた心臓の速度が僅かに増した。
左手に持っていたマグカップに入っているほうじ茶を二回啜った私は、先程彼が置いたマグカップの隣にそれを静かに置く。
「杏寿郎さん。あったかいですね……」
「そうか?確かに平熱は高めかもしれんな」
どれくらいか?と問えば、大体三十六度八分か九分あたりだと返答が戻って来た。
「何だか小さな子みたい」
「仕方ないだろう、体質だ」
少し拗ねたような声色を聞かせてくれる彼。かわいいなあと心の中だけで思う。
トン、と自分の頭を大きな肩にもたれるように倒す。すると、私の頭に掌をそっと乗せる杏寿郎さんだ。
沈黙が少し空間を支配する中、その空気を破るのは彼である。
名前を呼ばれて顔を右に向けると、自分の唇に柔らかなそれが触れた。
最初は様子を伺うように、ただ当てるだけ。
私が杏寿郎さんの右手の上から左手を重ねると、動きに変化が出た。
ちう、ちうと啄むキスをやりながら重ねた私の左手に自分の右手を絡める彼だ。
「んっ、」
声と一緒に息がはあ、と少しこぼれてしまう。すると、タイミング良くあたたかな舌を私の口内に侵入させる杏寿郎さんに胸がキュンとした。
上下の歯列をゆっくりと丁寧に辿られた後、一度唇が離れていく。
……どうしたんだろうか。
「杏寿郎さん?どうしたの?」
脳内で考えていた事を実際に言葉に出すと、彼は「うむ」と呟いたきり静かになってしまう。普段会社ではあまり見せない態度。
これにまた自分の胸が甘く鳴った。
「……このまま続けると、ここで君を抱いてしまいそうだ」
「え、あ?そ、そうなんですか??」