恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第58章 Evviva!(エッビーバ) / 🔥 ✳︎✳︎
終電はもうない。だから帰宅手段はタクシーのみだ。
「私も杏寿郎さんとまだ一緒にいたいです」
「そうか!」
「んっ」
彼が破顔したかと思うと、目の前が暗くなった。キスを一つくれたのだ。触れるだけの可愛い物。杏寿郎さんへの愛おしさが倍増した私は自分からも小さなキスを一度贈った。
「よもや」
「ふふふー」
虚をつかれ、きょとん顔をした恋人にまた愛おしさを感じる。
私の頭にポンと掌を乗せ、一回撫でた杏寿郎さん。互いに絡んでいる手をきゅっと繋ぎ直し、歩を進めて行く。
「……行くか」
「はい」
耳が少し赤くなっている彼が何だか可愛かった。
★
「おじゃましまーす……うわあ、綺麗にされてますね」
「そうか?ありがとう!」
彼の自宅の玄関ドアを開けて目に飛び込んで来たのは、スッキリとした廊下だった。靴を脱いで先導してくれる杏寿郎さんについていくと、次に目に入って来たのはこれまたスッキリとしたリビング。
十畳ぐらいかな。ワンルームの自分のマンションと同じ広さだ。
テレビに、四人がけのテーブルと椅子。それから座り心地が良さそうなオレンジのソファが一つ。これは二人がけ用かな。
おのぼりさんのようにキョロキョロしていると、杏寿郎さんがマグカップを二つ持って来てくれた。
「ティーバッグのお茶ですまない!」
「いえいえ、全然。ほうじ茶ですか?この香りは」
「そうだ、母がたくさんくれてな」
「へえ…」
受け取ったカップには茶色の液体が入っている。ほうじ茶独特の香ばしさが鼻腔に届いた。
「ここに座ると良い」
「あ、すみません。ありがとうございます……」
杏寿郎さんがソファーに腰を下ろす。
横並びの感覚がまだよくわからず、彼の位置から二十センチぐらい左に離れて座ると。
「七瀬、もっと近くに来てくれ」
「んっ……」
マグカップをソファー前のローテーブルに置いた彼は、柔らかく私の肩を掴んだ。