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恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)

第58章 Evviva!(エッビーバ) / 🔥 ✳︎✳︎



彼に手を繋がれている間は、不思議と周りの喧騒があまり耳に入らなかった。

人波の中をぶつからないように通り抜ける。
私の歩くペースに合わせているのか、杏寿郎さんは決して急ぐ事なく器用に人を避けつつ、出口を目指して行った。




「良かった!出入り口にきちんと来れて」

今日は二万人弱のお客さんが、ここに集まったらしい。周囲を見回すと、自分達がいる場所からそう離れていない場所にいるイタリアの男性四人組が目に入る。

彼らは肩を組みながら、歌っていた。


「アイーダだな」
「アイーダ?ですか」
「ああ、凱旋行進曲が有名だ」

アイーダとはジュゼッペ・ヴェルディが作曲しており、全四幕から成るオペラの事らしい。


ファラオ時代のエジプトとエチオピア、二つの国に引裂かれた男女の悲恋を描き、現代でも世界で最も人気の高いオペラの一つ。

杏寿郎さんが言った凱旋行進曲は、第二幕の第二場で流れている。このオペラの中ではよく知られている旋律だ。


こんな人達が他にも数人いる中、彼と手を繋いだまま最寄駅を目指す。


——— 三十分後、シャトルバスから降りた私達はJRに乗り、まずは都内に戻った。

車内はほどほどの混み具合だ。会話は今の私達になかったが、全然気まずくない。ガタン、ガタンと列車が揺れるリズムが心地よい。眠気に誘われた私は思わずガクン、と体が傾きそうになる。

「……大丈夫か?」
「ん、はい……」

ふらっとした自分を支えてくれたのは彼だ。少し焦点が合わない目を上に向ければ、優しい眼差しで私を見てくれている杏寿郎さんがいる。胸の中がほんのりとあたたかくなった。


「次は⚪︎⚪︎ー、⚪︎⚪︎、乗り換えのご案内を致します……」

「次で降りねばな」
「はい、そうですね」

車内アナウンスは次の駅で乗り換え出来る旨を私達に知らせる。
今日はこのままお互い自宅に帰るのかな。
もう少し彼と過ごしたい私は、そんな事を考えていた。

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