恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第58章 Evviva!(エッビーバ) / 🔥 ✳︎✳︎
「君はやはり愛いな!」
「……外でそう言われると恥ずかしいです。きょ……杏寿郎、さん」
頬の温度がじわっと上昇していく。胸の中心もドクドクと脈打ち始める。彼に下の名前を呼ばれた。そして自分も彼の下の名前を呼んだだけなのに。
「そろそろ戻ろうか。日付が変わるぞ」
「あ、はい……」
杏寿郎さんと話していると、あっという間に時間が過ぎてしまう。
お会計の時に「自分も出す」と言っても「良いから」の一点張りだった彼だけど、今日は珍しく折れた。
それでも三分の一しか支払いはさせてくれなかったけど。
お店を出ると大通りに向かった私達はタクシーを捕まえて、相乗りをし、まずは彼の自宅に向かう。
「え、大丈夫ですよ。二千円もかかりません!」
「先程出してくれただろう!良いから、良いから」
彼の自宅マンション前に着いたと思いきや、降車する間際にお札を私に素早く渡す杏寿郎さんだ。
「じゃあまた連絡する!運転手さん、出して下さい」
バタン、と扉をこれまた手早く閉めた彼は笑顔で手を振りながら見送ってくれた。
「お二人、仲が良ろしいんですねぇ」
「あ、はい。でも付き合い出したのはつい先程からで……」
運転手さんは女性で、この後自宅マンションに着くまで話が物凄く盛り上がってしまった。
「ご乗車ありがとうございました!それから素敵な恋のお話も」
「いえ、こちらこそ楽しい時間を過ごさせて頂きました」
彼女とは“おやすみなさい”と最後に挨拶を交わし、私は自宅に帰ったのだった。
こんな経緯を経て、私と杏寿郎さんは晴れて上司と部下から恋人同士へと。
そして互いの呼び名を、彼氏と彼女に変化させたのである。