恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第58章 Evviva!(エッビーバ) / 🔥 ✳︎✳︎
「とは言え、ほろ酔いの君も愛いがなあ」
「んっ……と」
危なかった。あやうくウーロン茶をこぼしそうになってしまった。
テーブルに置いている左手の上から、そっと彼の右手が重なる。ドクン、ドクン、と少しずつ高鳴る胸の鼓動。
これ……煉獄さんに伝わっているかな。
時間にして、物の数秒。ふっと右手に重なっていたぬくもりは消え去ってしまった。
「………」
「………」
沈黙が互いを柔らかく包む —— とは言っても、後ろではジャズミュージックが流れているが。
私と煉獄さんはまだ付き合っていない。まだ友人のままだ。
今夜こそは、今夜こそは。
彼と飲みに行く度に心の中で、そんな思いが充満していた。
ふと左手の腕時計に視線をやると、針は午前零時に切り替わる直前だった。
「沢渡さん、そろそろ良いか?」
「……何をでしょう」
煉獄さんが何の事を言っているのか。
検討はついているのについそんな事が口をついて出た。
“日輪”と思わず形容したくなる彼の両の瞳が、真っ直ぐに自分を捉える。
「君と恋仲になりたい。俺と付き合って欲しい」
「………はい、わかりました。私もあなたとお付き合いしたいです」
姿勢を正して、ぺこりと頭を彼に下げた。すぐに顔を上げると目の前には ———
「煉獄さん?顔が赤いですよ?」
そこには口元を右手で覆い、どこを見てよいのか視線を彷徨わせている彼がいた。
「すまん!いざ君からの了承を貰うと、やはり嬉しくてな」
「ふふ、それは良かったです」
かわいいなあと感じた私は、テーブルに置かれている煉獄さんの左手に自分の右手をそっと重ねてみる。先程とは逆パターンである。
「七瀬」
「……!は、はい」
やばい、急に下の名前で呼ばれたから驚いて体が震えちゃった!