恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第54章 八重に咲く恋、霞は明ける / 🌫
「君は?俺の事どう思っているの」
「え?う、うん……」
目が泳ぐ七瀬、ズズイと顔と体を彼女に近づける無一郎。彼が一歩足を出せば、七瀬が一歩足を下げる。それらを複数回繰り返していると、トンと彼女の背中に壁が当たった。
「…………」
「…………」
部屋には、互いの息遣いだけしか聞こえない。
「俺の誕生日を把握してるって事は、全然興味がないってわけじゃないよね」
「うん……」
「嫌なら避けて」
「んっ!」
瞬間、無一郎は七瀬の左頬を包んで口付けを一つ贈った。ちう、と音を響かせながら顔を離した彼はしてやったりと言う表情をしている。
「安心したよ、避けられなくて」
「避けるわけないよ。私も……あなたが大好きだから」
「良かった」
「んっ……」
再び無一郎は七瀬に口付けを贈る。今度は軽く啄む物だ。それを複数回施した彼は、最後に彼女のおでこに口付けを落とし、ぎゅうっと七瀬の華奢な体を抱きしめた。
「何か口付け慣れてる気がする……どうして?」
「……気のせいだよ」
「ねえ、何?その間は…」
「………」
無一郎は思い出していた。
天元に恋愛の享受を直接受けに行った事を。音柱には散々からかわれ、嫁達三人からは励ましの声援を貰い、今まで感じた事がない程の羞恥心と共に帰宅したのだ。
「俺安心したわーお前もいっちょ前に男なんだって」
「……他の柱の方達には絶対他言しないで下さいね」
「へいへい」
ニヤニヤしながら自分を見送ってくれた音柱の表情を無一郎は今でも直ぐに思い出せる。
「君さ、宇髄さんの好物って知ってる?」
「え?音柱……?確かフグ刺しだったと思うよ。何で急に?」
「……面白くない。何で君が知ってるの」
「だって他の隊士が……んっ、」
“言ってたのを聞いて知っていただけ” この言葉は無一郎からの性急な口付けによって阻まれた。