恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第54章 八重に咲く恋、霞は明ける / 🌫
「いい?君はもう俺の恋人なんだよ。だから他の男の事なんて知らなくて良い」
「私はずっと前から無一郎くんしか見てないよ」
七瀬は彼の首に両手を回し、優しく抱きついた。
「俺、好きな人を独占しないと気がすまないみたい。これから覚悟しててね?稽古も今まで以上に厳しくいくから」
「う、うん……頑張ります」
「七瀬が大好きだよ、ずっとずっと側にいて」
再び七瀬の唇は無一郎によって塞がれた。ちう、ちうと口付けを続ける二人を庭から見ているのは、一羽の鎹鴉。
『何ヨ、ツマラナイワ!デモ……』
「七瀬は本当に可愛いよね。肌もすべすべだし」
「ありがとう…」
『アンナニ幸セソウナ無一郎ヲ見タノ……初メテ……』
銀子は目から出て来た一粒の涙を拭い、しばらく二人が仲良くしている様子を見ていた。
それから一週間後 ———
「悪くないね」
無一郎は一枚の紙を見ながら、珍しく感心していた。
「俺の事、凄く好きなんだって伝わって来るし……ここは弐ノ型を入れてくれたんでしょ?嬉しいよ」
「ありがとう。先輩にも褒めて貰ったよ……んっ」
ちう、と七瀬の唇を柔らかくさらう無一郎。
彼は唇を離す際、ちろりと彼女のそれを舌で舐め上げてみせた。
ボン!と真っ赤になる恋人の左頬にもう一つあたたかな愛撫を落とすと、スッと立ち上がって庭に向かう。
「ほら、今日も稽古行くよ」
「うん……はい」
陽光に照らされる師範と継子の笑顔は、今日も霞が晴れたようにすっきりとしている。
【八重に咲く恋、霞は明ける。白群(びゃくぐん)の波に浮かぶは無限大の未知】
七瀬の文机上の紙には、そんな歌が書かれていた。
end.