恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第54章 八重に咲く恋、霞は明ける / 🌫
百人一首大会当日 —— 産屋敷家邸にて。
「じゃあ決勝は杏寿郎と無一郎だね。二人共最後まで諦めずに取り組んで、楽しむ事も忘れないでね」
「御意」
「ではこれより、決勝戦を始めます。制限時間は五分、下の句まで読み上げた上で札を取りに行って下さい」
当主・耀哉の労いが終わると、横に座っている妻あまねが注意事項を二人に改めて伝えていく。
シン —— と部屋の中を一瞬だけ静寂が通り抜けると、次の瞬間あまねの凛とした声が響く。
「春過ぎて夏来(なつき)にけらし………」
これより三十分前。
二人の男が東家で向かい合って話をしていた。霞柱と炎柱である。
「百個全ての句を覚えているらしいな!さすがは時透だ」
「……別にどうと言う事はありませんよ。所で話って何ですか?」
「ああ、君に折り入って頼みがある」
その後の言葉を聞いた無一郎の表情が一瞬で険しくなった。
「七瀬は俺の継子です。それは煉獄さんと言えどもお引き受けできません」
「そうか、それは残念だ。では俺が勝負に勝ったら彼女に聞いてみる事は可能か?」
何故炎柱はこんなにも、自分の継子に興味を示すのだろうか。
無一郎は胸中が穏やかではなかった。
「有り得ません。俺は必ずあなたに勝ちますから」
「そうか、楽しみだな!」
無一郎より六つ上の杏寿郎は同僚の宣戦布告にも全く動じない。
それがまた霞柱の心をざわつかせる。
「失礼します」
杏寿郎に一礼をし、そそくさと東家を後にする無一郎。その様子を後ろから見送っていた炎柱は嬉しそうに笑顔を見せる。
そこへやって来たのは ——
「あー、師範こんな所にいた!探してたんですよ?」
やや憤慨した様子で炎柱の前に姿を見せたのは、彼の継子であり、七瀬の先輩隊士であった。
「さっき霞柱とすれ違ったんですけど、珍しく殺気だってましたよ。何かあったんですか?」
「実はな……」