恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第54章 八重に咲く恋、霞は明ける / 🌫
そして翌日 ———
「じゃあまず一番」
無一郎と七瀬は朝の稽古後、着替えと湯浴みを済ませて百人一首の読み合わせを始めた。問題を出すのは七瀬だ。
「秋の田のかりほ(お)の庵(いお)の苫をあらみわが衣手(ころもで)は露(つゆ)に濡れつつ……天智天皇」
「何をした人かわかる?」
「即位前は中大兄皇子(なかのおおえのおうじ)と呼ばれてた人でしょ。大化の改新だっけ?六百四十五年」
「正解!!」
その後も十番、三十五番、六十六番……と順不同に七瀬は問題を出していくが、無一郎は一言一句違えず、答えてみせた。
「最後、百番」
「ももしきや古き軒端(のきば)のしのぶにもなほ(お)あまりある昔なりけり……順徳院」
順徳院は九十九番の後鳥羽院の皇子で、第八十四代天皇だ。
「百人一首は天智・持統天皇親子に始まり、後鳥羽・順徳院親子で終わっているんでしょ? なかなか面白いよね。あっと言う間に覚えれたよ」
“全部”
七瀬は驚愕していた。剣で天才と称賛された目の前の少年は頭脳も明晰らしい。
継子になって三ヶ月の彼女は無一郎についてまだまだ未知の事が多い。
刀鍛冶の里の任務以降、七瀬は彼の継子になった。
合同任務の際、無一郎の呼吸の精度に一目惚れをした彼女は無理を承知で継子申請したのだ。
断られ続けた七瀬だが、毎日のように霞柱邸に足を運んで無一郎に交渉を続けた。
しつこさ —— 粘り強さと言った方が角が立たないだろうか。
七瀬はしぶとく粘った結果、霞柱の継子と言う立ち位置を獲得した。
しかし、継子となってからがまた大変な日々。
無一郎は天才型なので、出来ない人間の気持ちがあまり理解出来ない為だ。だからか本人に悪気はないが、他人に放つ言葉がなかなかに厳しい。