恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第54章 八重に咲く恋、霞は明ける / 🌫
霞柱・時透無一郎。
十四歳と若年にも関わらず、刀を持ってわずか二ヶ月で鬼殺隊最高位の剣士である”柱”に着任した。
人は彼を「天才」と評する。
その一方で感情の起伏に乏しく、過去の体験から記憶が混濁している事が多々あった。しかし、刀鍛冶の里での任務並びに七瀬が継子になって以降、そんな彼に少しずつ変化が見られるようになる。
記憶に迷いが生じる事がグッと少なくなり、笑顔が時折出る事も増えた。
そして無一郎は自分では全く気づいていないが、継子に対し特別な感情を抱いている。
七瀬を異性として見ているのだ。
勿論、彼女の師範になったからには剣士としての育成にも力を入れねば —— そんな信念も他人に明かす事はないが、実は持ち合わせている。
「君、もっと打ち込んで来れるでしょ?何遠慮してんの」
「これで……はあっ、精一杯だよ……」
カンカン、カンカン。
霞柱の太刀が継子の太刀を全て翻していく。しばらく打ち合いが続いていた矢先に互いの呼吸が変化する。
「霞の呼吸・壱ノ型 —— 垂天遠霞(すいてんとおがすみ)」
「霞の呼吸・弐ノ型 —— 八重霞(やえかすみ)」
七瀬が放つ突き技に対し、無一郎は体を捻った連撃で応戦した。二つの型が交わる様子は、技名通り”霞”が混ざり合うようだ。
「参ノ型 ——」
「肆ノ型 ——」
継子が霞を晴らすように、腕で大きな円を描く回転斬りを繰り出せば、師範は彼女の足元に滑るように潜り込み、斜めに斬り上げる。
霞散の飛沫(かさんのしぶき)と移流斬り(いりゅうぎり)だ。
「ちょっと、七瀬。全然呼吸になってないよ!本気見せて」
「だから……はあっ、全力で……」
息がほとんど切れていない無一郎に対し、はあはあと食らいつく七瀬。木刀を握る両手に力を込めると、再び呼吸を打つ。