恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第54章 八重に咲く恋、霞は明ける / 🌫
因みに炎柱と”煉獄さん”は同一人物である(おわかりとは思うが、念の為)
無一郎は彼の快活な性格が嫌いではない。そこへ庭先からカアーカアーと鴉の鳴き声が聞こえて来た。
「無一郎、オハヨウ!オ館様カラ手紙ヨー」
鎹鴉が無一郎の右肩に羽をたたみながらゆっくりと降り立った。
名前は銀子。
彼女は霞柱の事を溺愛しており、継子の七瀬に対して一方的に嫉妬の感情をぶつけている。
「……おはよう、銀子。お館様から?」
「……!ウ、ウン!」
『何だろう……』
無一郎が銀子の脚に付いている手紙を確認している中、鴉はドキドキと鼓動を高めていた。
『無一郎…今日モ朝カラ美シイワ。眼福……』
銀子はうっとりとした視線を霞柱に送るが、本人は全く気にしていない。
「へえ、じゃあこれ丁度良いかも」
「エ?何ガ丁度イイノ?」
鴉は無一郎に疑問を問いかけるが、彼はそれきり口を閉ざしてしまった。
『正直面倒だけど、お館様の言う事なら従わなきゃな。それに……』
霞柱は先程七瀬が夢中で読んでいた冊子を手に取った。
『さっき、八十八番が好きだって言ってたような…』
パラパラとめくって行き、該当の頁に辿り着くと一つの和歌がそこにはあった。上の句・下の句と文字を追っていく無一郎。見開きの頁の左側にはその歌の訳も記されている。
本文と同じようにゆっくりと黙読していたそれを全て読んだ途端、彼の表情が変わった。
「何、これ。どうしてこの歌なわけ?意味がわからないんだけど」
不機嫌に声を発した無一郎にビクッと体を震わす銀子。
「ム、無一郎??ドウシタノ?」
「…………」
鴉の問いかけには返答せず、彼は再び八十八番の歌を目で追っていく。
『今日の稽古は倍の量にしないとね。七瀬なら大丈夫でしょ』
パタン、と冊子を閉じた無一郎はそれを文机にそっと戻し、継子の部屋を後にした。