第53章 Latte ship / 🔥✳︎✳︎
「七瀬」
「ん……」
ベッドに座っていた彼が立ち上がり、私をそっと抱きしめる。
広い広い胸の中はあたたかく、どこまでも安心出来る。スウッと息を吸うと鼻腔に入って来るのはスパイシーではあるけど、品が良い香りだ。
「ねえ、杏寿郎さん」
「ん?どうした」
「つけてるフレグランス、何て言うんだっけ?私も休みの日はつけたい」
「ほう、それは嬉しいな」
“ラブダナム” だと、彼はそう教えてくれた。爽やかでフローラルな香りと繊細でウッディーな香りが、絶妙なバランスを形成するとの事らしい。
「仕事でつけるにはちょっとメンズ感出ちゃうけど……良い香りだよね。杏寿郎さんにぴったり!」
スウ、と今度は自分から鼻腔にフレグランスの香りを吸い込むと、杏寿郎さんがくつくつ笑い出す。
「私、何かおかしい事した?」
「いや、全く。かわいらしいなと思って見ていたぞ」
長い指が私の左耳たぶをそっと掴むと、そこにちうと小さなキスが届けられた。
「ここから君の香りがする。シトラス系の爽やかな匂いだ」
「あ、ちょっとダメだよ……」
ちろりとあたたかな舌が耳の輪郭に沿って辿っていくと同時に、スカートがまくり上がる。ストッキング越しに右ももを撫でられると反応するのは下腹部の奥だ。
「今日はこのまま続けないか?これも派手な整備士に勧められてな。太鼓判を押されたのだが」
『宇髄さん……何て事を杏寿郎さんに伝えるの!!』
先程と同じく私の脳内にはドヤ顔で腰に手を当てる整備士の表情が思い浮かんだ。
目の前の恋人を見ると、何だかとても楽しそうな様子だ。そして双眸には加虐心がちらちらと見受けられる。
私は観念したように一度目を瞑って開けると、彼の首に両手を回した。
「わかったよ」
「七瀬は素直だな。本当に愛い!」
それは杏寿郎さんが私を褒める時の最大の殺し文句である。