恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第52章 Espresso Control / 🌊✳︎✳︎
「ガトーショコラを作りました!」
「ほう」
食事が終わり、ここへ来る前に作っておいたチョコレートケーキをホールごとドーンと見せる。
すると、義勇さんは濃紺の双眸を感心した様子で見開いた。
私が航空管制官になり、毎年バレンタイン当日にチョコレートを渡していたのだが、今年は体調を崩してしまいそれが叶わなかった。
これがなかなかやるせなく、ならばと思いホールケーキを作った次第だ。因みに試作兼味見として、ガトーショコラを既に作った事は彼に内緒。
だって恥ずかしいもん。
「はい、どうぞ。多分相性は良いんじゃないかな」
「楽しみだ」
八等分に切り分けたガトーショコラと一緒に、私はエスプレッソを義勇さんに渡した。
フォークで小さく切り分けた彼がまずは一口ケーキを口に入れる。
咀嚼が長い。味わって食べてくれているようだ。
ごくんと嚥下をすると、今度はエスプレッソを一口飲んだ義勇さん。
「ほう」と先程と同じ一言を漏らすと、再びガトーショコラを食べ始める。
「……………うまいな、確かに相性は良い」
「良かった」
試作で作ったガトーショコラはミルクチョコレートを入れすぎてしまい、甘さが強くなってしまった。
私には丁度よい口当たりだったけど、エスプレッソ好きの義勇さんはきっと甘すぎるだろうなあと考え、チョコレートの分量を半分減らしてみたのだ。
「試作した甲斐があった……」
「ん?何か言ったか?」
うんうん……と満足しながらガトーショコラを食べていると、どうやら心の声が直接口から漏れていたらしい。
「ううん、何でもない。喜んでもらえて嬉しいよ」
「そうか」
それだけ言うと彼は再びケーキを食べ始めた。きっと先程の私の言葉は義勇さんに届いているのだろう。
何故ならば ——— 彼は話を聞いていないようで、聞いていたりする為だ。